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トピックス/コラム詳細
- 2011年12月13日
- コラム
弁護士:久保井 聡明
地方自治体と弁護士
数年前から大阪府下の地方自治体の職員の方々と,地方自治体の抱える法的な問題点について協議を行っています。もともと私は地方自治関係の仕事は余り手掛けてこなかったのですが,久保井総合法律事務所出身の福原哲晃弁護士から,「大阪弁護士会の弁護士業務改革委員会行政部会の仕事を手伝ってほしい」と声を掛けて頂いたことがきっかけになりました。
業務改革委員会というのは一般の方からすると,どのような仕事をするのかイメージがわきにくいと思いますが,簡単に言えば,弁護士業務を改革して,弁護士の業務領域を従来の訴訟中心からもっと多様なものにしていき,弁護士に対する社会の需要を掘り起こしていくことを目的とした委員会です。このため,業務改革委員会では,他の士業の方々(公認会計士,司法書士,税理士,不動産鑑定士,土地家屋調査士等)と共同で勉強会や交流会を行ったり,大阪証券取引所と共催で弁護士や上場会社の法務担当者向けのセミナー(敵対的買収,インサイダー取引規制等)を行ったり,商工会議所とタイアップして弁護士の出張法律相談を企画したり,一般の方々が遺言をされるのを手助けする事業を行ったり等,様々な活動を行っています。それらの活動のひとつとして,私が関与している行政部会があり,地方自治体の法的ニーズに弁護士がもっと積極的に関与していき,ひいては弁護士が地方自治体の債権回収問題や条例作成作業等に関与し,場合によっては任期付公務員として自治体に入っていくことを後押ししていく,そういう活動を行っています。
現在は約20名の弁護士で任意団体を作り,某市から,その市が保有している債権管理回収上の法的問題点を調査研究し,改善提言を行うということを行っています。「債権管理回収であれば弁護士は専門家だから簡単にできるのでは」とお考えの方もいらっしゃると思いますが,やってみるとそう単純ではありません。市町村が保有する債権には,一般の民間企業と同じように,相手方が支払ってくれない場合に裁判所に提訴して判決を得たうえで強制執行しなければならない債権(これを私債権と自治体では呼んでいます)だけではなく,税金と同じように滞納が発生した場合に裁判所での手続を経ることなくいきなり滞納処分による差押えなどを行う事ができる債権(同じく強制徴収公債権と呼んでいます)もあり,この両者では,回収手続きだけではなく,根拠法も,消滅時効の扱いも(公債権では債務者が時効を援用することなく時効期間が経過すれば消滅するとされています),全く異なります。弁護士が普段,一般の民間企業や個人からご相談を受けるのは,上記でいう私債権ばかりですから,強制徴収公債権については一から勉強する必要があり,相当な時間を掛けて調査研究を行っています。このように,これまで殆ど馴染みのなかった世界や法律に触れることは大変ではありますが,弁護士としての視野が広がり,また自治体の意思形成のあり方や,現在抱える問題点等がよく分かり貴重な経験となっています。
(記:平成22年春)