相続放棄について – 久保井総合法律事務所

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2011年12月15日
コラム

弁護士:上田 純

相続放棄について

相続に関する法律相談の中で,相続放棄に関する相談も比較的多くあります。よくある相談内容として,ご両親やご兄弟が亡くなってしばらく経ってから,その故人の債権者から相続人に請求書が届いたという相談があります。

 特に同居していない場合には,ご両親の遺産・負債状況について全く把握していないことが多く,請求書が届いて大変驚かれることになります。ご兄弟が亡くなった場合にも,他のご兄弟が相続人になることがありますが,ご兄弟の場合にはご両親以上に遺産・負債状況を他のご兄弟が把握していないことが多く,請求書が届いてもすぐに状況が飲み込めないことになります。

 遺産が相当残されていれば,その遺産から負債を支払えばよいのですが,遺産が特になく,債務を支払う原資がない場合には,相続放棄をして,相続人とならない手続をすることになります。具体的には,直ちに,故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行って,相続放棄の申述書を提出することになります(民法938条1項,家事審判法9条1項甲類29号,家事審判規則114条,115条,99条)。

 ところが,民法915条1項において,「相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」相続放棄等をしなければならないとされていることから,六法全書(或いは,ネット上の法令データ)で民法を見て,逝去されてから3か月以上経っているから相続放棄ができないとあきらめる人も多いようです。

 確かに,判例上も,3か月の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,原則として,相続開始原因事実(死亡,失踪宣告等)と自己が法律上相続人となった事実を知った時とされています(大審院決定大正15年8月3日判決民集5巻679頁)。そうすると,通常,ご両親が亡くなられた場合には,これらの事実を知ったことになりますから,逝去を知ってから3か月経過していれば相続放棄は一切できないことになりそうです。

 しかしながら,判例上,例外的に,逝去を知った場合でも,知った時から3か月以内に相続放棄等をしなかったのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,故人の生活歴,故人と相続人との交際状態,その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があり,相続人においてそう信じる相当な理由があると認められるときには,相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうるべき時から起算するとされています(最高裁昭和59年4月27日判決民集38巻6号698頁)。

 従いまして,逝去から3か月以上経過していても,事情によっては相続放棄が可能となりますので,あきらめず,是非弁護士に相談して頂きたいと思います。