既存の融資取引からの反社排除に向けた諸課題と検討 ~みずほ銀行問題を受けて~ – 久保井総合法律事務所

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2014年02月15日
コラム

弁護士:久保井 聡明

既存の融資取引からの反社排除に向けた諸課題と検討 ~みずほ銀行問題を受けて~

1 みずほ銀行問題で新たな段階を迎えた既存の融資取引からの反社排除
 昨年はみずほ銀行の反社会的勢力に対する既存融資の「放置」問題を契機として、金融機関の既存の融資取引からの暴力団等の反社排除の問題が大きくクローズアップされました。振り返れば、これまでも金融取引からの反社排除の問題は、何か大きな事件がある度にクローズアップされ、大きく前進するという歴史の繰り返しであったように思います。今回もみずほ問題を契機に、金融取引からの反社排除の問題は新たな段階を迎えることと思います。
 私が所属する大阪弁護士会及び近畿弁護士会連合会の民暴委員会は、継続的にこの金融取引からの反社排除の問題に取り組み、銀行や信用金庫、信用組合のアンケートやヒアリング調査を行ってきました。約10年前のヒアリング調査で、「融資取引先が暴力団であると判明した場合に、たとえ約定弁済が滞りなく行われていても期限の利益を喪失させることができる旨の暴力団排除条項を銀行取引約定書に導入することについてどう考えますか」とお聞きしたところ、いずれの金融機関も、「そのような条項は考えられない」という回答でした。これに対し、昨年実施したアンケート調査では、全ての金融機関が暴排条項を導入し、反社排除のためのデータベースの整備を行っている、との結果でした。現在では10年前とは違って、反社排除の政府指針や金融庁の監督指針がありますので、当然と言えば当然のことではありますが、それでもやはり隔世の感があります。そこに今回のみずほ銀行の問題です。既存の融資先に反社会的勢力が存在したにも拘らず、2年間「放置」していた、ということで業務改善命令を受けたのですから、今後、金融機関としては、単に暴排条項を導入しデータベースを整備するという反社排除のための態勢整備だけではなく、実際に融資取引等からいかに有効に反社会的勢力を排除しているのか、という実践が問われるようになった、と言えるでしょう。その意味で、既存の融資取引からの反社排除は、新たな段階を迎えた、と言えるでしょう。

2 他方で、「放置」と一括りにすることへの若干の違和感
 他方で、みずほ銀行の融資先に反社会的勢力が存在していた、にも拘らず、保証を行っていたオリコに対して代位弁済を求めることもなく、反社への融資の解消を行っていなかった、として、一連の経過の全てを「放置」であると一括りにして批判することに対しては若干の違和感があります。私が敢えて、「放置」とカギカッコを付けているのには、その違和感からです。 「放置」したと言って批判するからには、その前提として、「本来は~ということが出来たはずであり、すべきであった」ということが必要なはずです。しかしながら、実際に既存の融資取引から反社排除を行うためには、様々な法的あるいは事実上の課題があります。金融実務家としては、これらの課題についてきちんと検討を行ったうえで、「本来は~ということが出来たはずであり、すべきであった、にもかかわらず、これを行わなかった、だから許されない放置である」、という形で批判し、反社排除に向けた実務を着実に前進させていくべき、と思います。
 この点、私も準備に参加していた平成25年11月1日開催の日本弁護士連合会第79回民事介入暴力対策和歌山大会では、様々なヒアリング調査なども踏まえて「金融機関からの反社会的勢力排除」というテーマで報告を行いました。大会の開催時期がみずほ問題の業務改善命令と重なったことは全くの偶然ですが、この報告では、上記の「本来は~ということが出来たはずであり、すべきであった」ということを明確にすることを心掛けました。詳しくは、金融法務事情1984号(2013年12月25日号)28頁~に掲載された特別企画「金融機関からの反社会的勢力排除」(以下、単に「特別企画○頁」と記載します。)を是非お読み頂きたいと考えていますが、ここでは、融資取引からの反社排除の諸課題とこれに対する私たちの考察をご紹介します。

3 既存の融資取引からの反社排除に向けての諸課題とこれに対する考察
 (1) 反社排除に向けた様々な課題について
 前記2に記載した反社排除に向けた様々な課題で大きなものだけでも、①当該既存の融資取引の契約書には暴排条項が導入済みか否か、②融資先が反社会的勢力であることの立証について警察からの情報提供が得られるのか否か、③約定弁済がきちんと行われている状況で期限の利益を喪失させた場合、果たして全額の債権回収を行うことが出来るのか、④仮に全額回収ができず回収不能債権が残った場合、その最終処理、「出口」の問題をどう解決するのか、より具体的には、預金保険機構の特定回収困難債権買取制度の利用ができるのか、サービサーへの売却が可能なのか否か等があげられます。実際の金融実務において、融資先が反社であると疑われる事例が生じた場合、少なくとも上記の各点について検討を行うことが必要となります。以下、具体的に検討していきます。

 (2) ①暴排条項が導入済みか否かについて
 既存の融資先が反社であることが疑われ、融資解消を検討するにあたっては当然のことながら法律上の根拠が必要とされます。この点、全国銀行協会が銀行取引約定書に盛り込む暴排条項の参考例を公表したのは平成20年11月25日のことですので、既存の融資取引について、期限の利益喪失事由として暴排条項が導入されていないケースもまだまだ多いのが実情でしょう。暴排条項が導入されていれば、次のステップに進むことになりますが、暴排条項が導入されていないケースでは、期限の利益喪失に関する一般条項の適用の検討、具体的には債務者が反社に該当することが判明したことを理由として債権保全の相当事由があると主張し、期限の利益を喪失させることが可能か、という考察が必要になります。近時は全国全ての都道府県で暴排条例が施行され、反社であることが明らかになれば事業活動に大きな影響が生じるようになっています。実際に融資先が、刑事事件などで反社であることが新聞報道されたり、自治体が反社であることを理由に公共工事の入札指名停止を公表することにより、あっという間に廃業に至るケースも出てきています。したがって、融資先が反社であることが判明した場合、一般論としては債権保全の必要性が高まるとは言えるでしょう。しかしながら、それが直ちに期限の利益喪失につながる債権保全相当事由に該当するか否かは、具体的事案に応じてケースバイケースと考えざるを得ません。反社関係ではありませんが過去の裁判例でも、債権保全相当事由の一般条項該当性の判断は慎重に行われており、融資先が反社であることが判明したことにより、具体的にどのような意味で債権保全の必要性が他の期限の利益喪失事由と同様に高いと評価できるのか、主張立証していく必要があると考えられます。

 (3) ②警察からの情報提供が得られるのか否か
 暴排条項導入済みの融資である場合、債務者が間違いなく暴排条項の定めている反社に該当するのか、万が一、訴訟などで争われた場合、立証が可能なのかを検討する必要があります。具体的には警察から債務者が暴排条項の定める反社に該当するとの情報が得られるか否か、という点が問題となります。この点、警察も公務員ですから守秘義務があります。他方、民間企業等が反社排除に取り組むためには警察からの情報提供が不可欠です。そこで、警察庁では、平成25年12月19日、「暴力団排除等のための部外への情報提供について」(警察庁丙組企分発第35号、丙組暴発第13号)を発し、情報提供の基準を定めています。全般的に見ると、以前に比べて警察の協力は得られやすくなったように感じますが、個別のケース毎では情報提供を得られない場合もあります。特に暴排条項には暴力団員のほかに、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、役員が暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有することなどの類型が定められますが、これらの場合にはどうしても警察も情報提供に慎重となる傾向があります。実際に、みずほの件で、オリコが平成25年11月22日に経済産業省へ提出した報告書の概要が同社のホームページに公表されていますが、これを見ると、警察の情報で反社該当性が立証できるケースは必ずしも多くないことが分かります。すなわち、みずほ銀行が債務者が反社であると認定し、これを受けてオリコが平成25年5月以降に保証債務を履行した147件のうち、暴排条項が導入済みの案件は39件あったのですが、完済されていた2件を除いた37件について警察へ情報提供を求めたところ3件のみが該当であり、32件が該当なし、2件は反社懸念があることの裏付情報がないことを理由に未回答であった、とされています(ちなみに暴排条項導入前の案件については、たとえ暴力団に該当していたとしてもそれだけでは直ちに期限の利益を喪失させて融資を解消することができないということもあり、照会不可、とされています)。もちろん、警察情報が得られない場合であっても、様々な間接的な情報から判断して暴排条項を適用するということも考えられますが、訴訟で争われたことを考えると慎重に考えざるを得ないところです。この点、全銀協が平成25年11月14日に公表した「反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について」によると、反社データベースの充実・強化策として、他の業界団体の反社データベースとの情報交換とともに、銀行界と警察庁データベースとの接続についても、警察庁・金融庁・銀行界の実務者間で継続的に検討していく、とされています。今後の進展が待たれるところです。

 (4) ③約定弁済がきちんと行われている状況で期限の利益を喪失させた場合、果たして全額の債権回収を行うことが出来るのか
 金融機関にとって業務の適切性確保の観点から、融資取引からの反社排除は極めて重要であることは言うまでもないことです。したがって、暴排条項が導入されている融資契約において、融資先が反社に該当することが判明した場合、たとえ約定弁済がきちんと行われていたとしても、暴排条項を適用して期限の利益を請求喪失させ、融資金の一括回収を求めていくのが原則的対応でしょう。他方、約定弁済がきちんと行われている状況において、暴排条項を利用して期限の利益を喪失させ一括回収を求めた場合、結局、全額の回収ができず、結果的に反社に対して回収不能部分の利益を供与してしまうこととなり、金融機関にとっても不良債権を抱えることとなり財務の健全性が損なわれる、という懸念も、一定、理解できるところです。この点のポイントをあげれば、金融機関とすれば、①融資先が反社と判明した場合、前述のように事業が突然ストップすることがあり得ることも踏まえ、約定弁済が継続しているからと言って安易に約定弁済を継続している方が債権回収の最大化に資すると判断しないこと、②そのうえで、仮に直ちに一括回収を求めないとしても、出来得る限り早期に関係解消を図るべく、そのためのモニタリングとプランニングを継続して行うことを基本とし、③担保が十分にあるなどの事情で一括弁済を求めたとしても全額回収が可能な場合には、財務の健全性への配慮は不要であり一括弁済を求めること、④一括弁済を求めた場合に全額回収が困難な場合であったとしても、例えば、a)融資実行の経緯が不適切であるなど監督官庁の処分や報道による金融機関の著しい信用低下が考えられる場合、b)融資先の反社性が特に強度である場合、c)融資金が暴力団活動を助長するような使途に充てられていたことが判明したような場合には、期限の利益を喪失させ一括弁済を求めるべきこと、等となるでしょう。

 (5) ④仮に全額回収ができず回収不能債権が残った場合、その最終処理、「出口」の問題をどう解決するのか
  ア サービサーが反社債権の買取りを行わなくなった背景
 金融機関から既存の融資先からの反社排除に関するご相談を受けた場合、最近よく耳にする悩みは、金融機関が回収活動を行った結果、回収が困難であった部分の出口をどうするのか、という点です。仮に暴排条項を適用して一括弁済を求めたとしても、最終的に全額回収ができず未回収債権が残った場合、融資先が破産手続などの法的手続きをとった場合には直接償却なども可能ですが、反社先などの場合、得てして法的手続きを取らずに放置する、ということがあります。このような場合、金融機関としては、従来であればサービサーへの売却などを行い、最終処理を行うことが出来たのが、近時は、サービサーが反社債権を買い取ってくれない、したがって、どうしても反社債権の一括回収に二の足を踏んでしまう、というのです。サービサーが反社債権を買い取らなくなったのは、ご承知のように都道府県の暴排条例の利益供与禁止が大きく影響しています。サービサーが反社債権を買取り、債務者との間で一定の金額を回収し、その余の部分を債権放棄したり、極端な話し、リスケジュールを認めるとそれだけで暴排条例の利益供与禁止に反すると言われかねない、そうであれば、最初から反社債権については買取りを行うことをやめよう、ということになり、多くのサービサーがこのような方針をとっているようです。

  イ サービサーが反社債権を買い取らないことの影響
 サービサーが反社債権を買い取らない方針をとる、というのは、一見すると現在の反社排除の流れからすれば当然とも思われます。またサービサー業界だけを見れば、新たな反社債権を抱えない、ということですので、反社排除にとって望ましい、とも考えられます。ただ、一方で、金融機関側から見ると、サービサーへの売却という形で切り離せないため、最終的に回収不能に至った不良債権を永続的に管理しなければならず、反社との関係遮断も困難となる、という見方もできます。このように不良債権となってしまった場合の出口が見つからない以上、金融機関としては、本来であれば、暴排条項などを駆使して期限の利益を喪失させ一括弁済を求めるべき案件についても躊躇せざるを得なくなる、という悪循環を生みかねません。実際に公表されたみずほ銀行の問題の特別調査委員会の報告書においても、たとえオリコに代位弁済を求めたとしてもオリコが求償権を取得するだけで、グループ会社全体でみれば最終的な反社排除にはならない、ということが代位弁済を求めなかった「言い訳」の一つとされていたようです。このように、サービサーが反社債権の買取りを一切行わない、ということは、金融業界全体という大きなレベルで見れば、反社債権の滞留を招き、本当の意味での反社排除に繋がらない、という側面もあるのではないでしょうか。もちろん、サービサーが何でもかんでも反社債権を買い取って、安易に債権放棄をすることは、反社の活動を助長することになるため許されないのは当然です。しかしながら、個別具体的事情によっては、適切な手続を踏まえてサービサーが反社債権を買取り、金融機関が反社債権の最終処理を行うことができるようにすることこそが、金融業界全体としては反社排除を進めることができるのではないでしょうか。以下、特にサービサー業務と暴排条例の利益供与の関係についての、一つの考え方を提示させていただきます。

  ウ サービサー業務と暴排条例の利益供与の関係についての考察
 各種の暴排条例において禁止されている利益供与は、類型的に考えると、①暴力団の威力を利用する目的で利益供与する場合、②暴力団の活動または運営に協力する目的で相当な対償性のない利益供与をする場合、③情を知って、暴力団の活動を助長し、または暴力団の運営に資する利益供与をする場合、が考えられます。サービサー業務においては、①②は論外でしょうから、③との関係が特に問題となると思われます。この点、暴排条例の利益供与禁止規定は、暴力団への資金流入を遮断し、事業者に対し、暴力団に立ち向かうための決断を後押しし、暴力団と関係遮断する機会を提供することを目的として定められており、事業者から暴力団員等に対する悪質な利益供与を禁止するものと考えられます。
 とすれば、サービサー業務との関係で考えても、形式的にはサービサーが反社と和解し債務免除により経済的利益を与えているように見える場合であったとしても、以下に述べるような実体面と手続面の双方から総合的に検討して、個別具体的なケースにおいては、暴排条例の利益供与禁止に反しない場合もあり得る、と考えるべきと思われます。
 【実体面】
   a) 対象とする債権の性質
 この点、事業のための融資について債務免除を行うとなると、暴力団という組織に不当な利益を与えることになることは争いないものと思われます。しかしながら、例えば個人の住宅ローンで実際に当該個人と家族の居宅として利用されていたような場合のように、債権の性質としては暴力団組織との関連性が非常に薄いとの評価が可能な場合はあると考えます。まずはこのような典型的ケースをもとに事例を積み上げ、そのうえで、さらにその他の個別の債権についても検討していくことが重要と思います。

   b) 実際に免除を行う範囲の検討
 当然のことながら、反社に対して債務名義を取得し実際に強制執行を行った場合の回収金額以上の経済的な負担を負わすことができるかどうか、が一つの基準となると思われます。すなわち、債務者の有する財産の清算価値を上回る金額の最大限の回収と評価しうるか、という観点です。この点、サービサーが当該債権を仕入れた際の金額(仕入価額)を考慮するのは、仕入価額は様々な考慮要素で決定され清算価値を必ずしも上回るものではない以上、やはり相当ではない、と考えます。

 【手続面】
   c) 清算価値・最大限の回収を判断するための適切な調査
 このように実体面の検討において、債務者の有する財産の清算価値を上回る金額の最大限の回収と評価しうるか、という観点が重要としても、実際に回収した金額が果たして本当に、当該債務者の有する財産の清算価値を上回る最大限のものであったのかは、検証が難しいのも事実です。とすれば、やはり、手続的に、清算価値・最大限の回収であったと判断するための適切な調査を尽くしたと評価できるか、という検証が重要になってきます。少なくとも、銀行取引約定書や金銭消費貸借契約等に基づいて債務者に財産状況等の報告を求め、預貯金、不動産、有価証券、保険、給与などの収入そのほかの財産毎に、自己破産申立てにあたっての必要書類レベルの裏付け資料の提出も求め、これらの要求に対し債務者が誠意をもって対応してきたか否か、が重要になってくるでしょう。

   d) 和解手続きへの取締役弁護士の関与など適正手続の実施
 さらにこれら債務者の資力調査や最終的な和解内容について、取締役弁護士が法的観点からチェックを行うというルールを確立し、手続の客観性を担保していくことが必要と思われます。

4  おわりに―オリコ問題を受けた金融庁の対応と今後の展望
 金融庁はオリコ問題を受けて、平成25年12月26日、「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」を公表しました。そこでは、①反社との取引の未然防止(入口)、②事後チェックと内部管理(中間管理)、③反社との取引解消(出口)の3段階に分けて、今後の推進していくべき取組内容が挙げられています。そこには、入口では、銀行と警察庁のデータベースの接続の検討加速化等が、中間管理では、反社との関係遮断に係る内部管理態勢の徹底等が、出口では、預金取扱金融機関による預金保険機構の特定回収困難債権買取制度の活用促進と、信販会社・保険会社等によるサービサーとしてのRCCの活用、が掲げられています。今後の議論の進展に目が離せません。

以 上