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トピックス/コラム詳細

2020年09月03日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信8.18-26(17.スマホと議決権行使,18.役員報酬後払い,19.オンライン労働審判,20.ビデオリンク尋問,21.裁判IT化,22.国会オンラインの壁)

17.【スマホでの議決権行使】20.8.18

昨日(8.17)の日経新聞の夕刊一面に,「スマートフォンを使って株主総会で議決権を行使できる仕組みを導入する上場企業が増えている。こうした情報システムの大手、日本株主データサービス(東京・杉並)では2020年6月開催の株主総会で提供先が337社と、19年より61%増えた。新型コロナウイルスの感染拡大で総会への出席を見送った株主に配慮した。」との記事がありました。私も,この6月総会では,自分が株主になっている2つの会社でスマホで議決権行使をしました。コロナのこともあり,今後,この動きは加速していきそうです。

 

18.【役員報酬後払い】20.8.19

関西電力の役員報酬後払い問題の調査報告書が開示されています(下記のURL)。企業法務的に見ても重要な論点が含まれているように思われます。

 https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2020/0817_1j.html

 報告書では,仮に役員退職後の嘱託報酬が,「役員報酬の後払い」に該当する場合には,株主総会で決議した取締役の報酬上限の範囲内において取締役の決議(又は取締役会による代表取締役への一任決議に基づく代表取締役の決定)又は監査役の協議に基づき個別の支給金額を決定しなければならず(会社法361条1項・387条2項),所定のプロセスを経ずに支給した場合には法令違反に該当することになる,として検証を行っています。報告書を読むと,諸事情をあげて「役員報酬の後払い」にあたるとして役員報酬規制に服するのかどうかについては意見が分かれるとしつつ,仮に役員報酬規制に服さないとする立場に立ったとしても,本件の方針を決定し委嘱を決定した取締役には善管注意義務違反がある,としています。

 概要版をざっと見るだけでも勉強になりました。

 

19.【オンライン労働審判】20.8.21

新型コロナの影響で,様々な業界でオンラインへの移行が進んでいます。裁判所は最もオンライン化が遅れている分野の1つと思いますが,今年の2月からウェブ会議を使った裁判が一部試行されるようになっています。この点,8.18日経夕刊に,下記の記事がありました。現在,民事裁判のIT化を実現する民事訴訟法改正については,法制審議会で議論が始まっていますが,今回のコロナは,この法改正の議論にも影響を与えそうです。

 「民事訴訟の手続きをオンラインで進める目的で2月に始まった「ウェブ会議」が、従業員らと雇い主の紛争解決を図る労働審判制度にも導入されたことが17日、最高裁への取材で分かった。7月にまず18件(速報値)で活用された。」

 

20.【ビデオリンク証人尋問】20.8.24

前回(8.21)はオンライン労働審判について配信しましたが、20.8.23の朝日新聞朝刊の記事によると、前法務大臣の公職選挙法違反事件(買収)について、120人ほど予定されている証人尋問について、「東京地裁は40人超について、法廷と広島地裁の別室をモニターでつなぐ『ビデオリンク方式』で実施する見込みだ。病気や高齢などを理由に上京が困難な証人がいるほか、新型コロナウイルスの感染が収束していないことも考慮したとみられる。」ということです。刑事事件の手続については、刑事訴訟法がルールを定めていますが、ビデオリンク方式による証人尋問は下記の定めがあります。民事事件の手続を定める,民事訴訟法のルールも合わせてご紹介します。

 【刑事訴訟法第157条の6】(抜粋)

「2項 裁判所は、証人を尋問する場合において、次に掲げる場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、同一構内以外にある場所であつて裁判所の規則で定めるものに証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、尋問することができる。

一 犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が同一構内に出頭するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認めるとき。

二 同一構内への出頭に伴う移動に際し、証人の身体若しくは財産に害を加え又は証人を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるとき。

三 同一構内への出頭後の移動に際し尾行その他の方法で証人の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定されることにより、証人若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるとき。

四 証人が遠隔地に居住し、その年齢、職業、健康状態その他の事情により、同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき。」

 【民事訴訟法204条)

「 裁判所は、次に掲げる場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。

一 証人が遠隔の地に居住するとき。

二 事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情により、証人が裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるとき。」

 

21.【裁判IT化の課題】20.8.25

前々回はオンライン労働審判を、前回はビデオリンクによる証人尋問を取り上げました。裁判のIT化は今後、ますます進んでいくと思います。他方、IT化には課題も多くあります。

この点、昨日の日経新聞に、「民事裁判でメールなどのデジタルデータが証拠となる例が増えるなか、改ざんされたデータが証拠とされてしまうリスクを指摘する声が専門家から挙がっている。書き換えが容易なのにもかかわらず、国内では裁判所に提出されたデータが真正かどうかを確認する方法は未確立だ。裁判手続きのIT(情報技術)化を進めるうえでも議論が必要になりそうだ。」という記事がありました。現在のリアル裁判では、証拠書類(書証)を提出する際、原則として原本を裁判所に持参し、裁判所が原本と提出されたコピーを照合する作業が行われます。相手方もこの確認を行わいます。データの証拠が主流となった場合、このあたりの実務をどうするのか、大変難しく重要な問題です。

 

22.【国会のオンライン化の壁】20.8.26

ここ何回か裁判のIT化関係を取り上げました。通信19号のオンライン労働審判の紹介の際、「裁判所は最もオンライン化が遅れている分野の1つ」と書きましたが、現在のところ最も遅れているのは国会かもしれません。

8月21日の朝日新聞朝刊で、自民党の若手議員が4月に、「感染がさらに拡大したり、議員に感染者が出たりする場合に備え、国会のインターネット中継を視聴すれば出席と認めたり、オンライン採決も可能としたりする改革案をまとめた」ものの、「常識が壁」になっている、とありました。これまでの「常識」の根拠が、下記の憲法の条文のようです。ただ、700年の歴史を誇る本家本元のイギリス議会でも4月からオンラインで行われています。「出席」概念の再整理が必要に思います。

【憲法56条1項】

「両議院は総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」