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トピックス/コラム詳細

2020年09月17日
コラム

弁護士:久保井 聡明

久保井L⇔O通信8.27-9.1(23.感染症法前文,24.京都芸術大学の名称は不正競争?,25.副業新ガイドライン,26ネット中傷対策で電話番号も開示対象に)

23.【感染症法前文の精神】20.8.27

さて,天理大学ラグビー部でクラスターが発生したことを受けて,大学に「謝罪しろ」という抗議文が殺到したり,天理大学の大学生がアルバイトを拒否されたり,という動きがあり,これに対して天理市長が冷静な対応を呼びかけるなど波紋を呼んでいます。

 新型コロナは感染症法の指定を受けていますが,感染症法の前文は,日本の法律には珍しい「名文」と言われています。今,この前文を読み直す必要がありそうです。

 【感染症法前文】

「人類は、これまで、疾病、とりわけ感染症により、多大の苦難を経験してきた。ペスト、痘そう、コレラ等の感染症の流行は、時には文明を存亡の危機に追いやり、感染症を根絶することは、正に人類の悲願と言えるものである。

医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により、多くの感染症が克服されてきたが、新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により、また、国際交流の進展等に伴い、感染症は、新たな形で、今なお人類に脅威を与えている。

一方、我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。

このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。

ここに、このような視点に立って、これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため、この法律を制定する。」

24.【京都芸術大学の名称は不正競争?】20.8.28

いつも大変お世話になっております。今日は,少し長文になってしまいました。

(偶然ですが,今日の日経新聞一面の春秋に,昨日配信した,感染症法前文のことが載っていましたね。)

 (1)さて,今日の新聞各紙に,京都造形芸術大から校名変更した「京都芸術大学」(京都市左京区)を運営する学校法人に対し、京都市立芸術大(西京区)が不正競争防止法に基づき,名称の使用差し止めを求めた訴訟の判決が27日、大阪地裁であり、市立芸大側の訴えを退けられ,学校法人側が「京都芸術大学」を使用することが法廷で認められた,という記事が載っていました。

 (2)判決文そのものを読んでいませんので詳しくは分かりませんが,比較的詳しく紹介をしていた京都新聞の記事(20.8.28)によると,「京都市立芸術大や、略称「京都芸術大」「京芸」などの知名度が争点の一つとなり,市立芸大側は「京都芸術大学」などの略称を用いたチラシや展覧会図録が多数有ることから「全国、世界的にも有名」と主張し、学校法人側は「芸術に関心がなければ、一般の人は目にすることがない」と反論していたようです。判決では、「著名な商品表示」とは、芸術分野に関心を持つ者に限らず、全国的かつ一般的に知られている必要があるとした上で、京都市立芸術大学側が「著名」と主張する「京都市立芸術大」や「京都芸大」「京芸」などの名称や略称は、「著名」とは言えないとした,ということのようです。また,「京都市立芸術大」と「京都芸術大」を誤認する恐れがあるかどうかも争点の一つだったようですが,受験生や保護者、芸術に関心のある人は、「京都市立芸術大」と「京都芸術大」が併存した場合、「市立」を特徴的な部分と捉えるため、類似のものとして受け取る恐れがあるとはいえない、などとしたようです。

 (3)関連する不正競争防止法の条文は下記のとおりです。

【不正競争防止法】

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

 (4)ちなみに,類似裁判例としては,「青山学院大学」「青山学院中等部」等の学校を設置運営する学校法人が,「呉青山学院」なる名称を中学校及び高等学校の校名に用いた学校法人を相手の起こした訴訟で,不正競争防止法二条一項二号所定の不正競争行為に当たるとされた事例があります(東京地方裁判所平成13年7月19日判決)。参考までに,青山学院が著名であると判断した判決文を抜粋して添付しておきます。

 

25.【副業の新ガイドライン】20.8.31

労働省が,副業をする人の残業時間について、働く人が勤務先に事前申告するルールを9月から始める,との報道がされています。働き手が本業と副業とでどう働くかを自由に検討できるようにし、副業を促す狙いがあるようです。他方で,長時間労働による労災なども問題となっており,働きすぎる人が増える恐れもあります。なかなか難しい運用になるように思います。下記,厚労省の労政審議会のHPにアップされている,新しいガイドライン(案)です。

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000663596.pdf

【使用者の確認事項の部分の抜粋】

イ 副業・兼業の確認

(ア)副業・兼業の確認方法

使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する。その方法としては、就業規則、労働契約等に副業・兼業に関する届出制を定め、既に雇い入れている労働者が新たに 副業・兼業を開始する場合の届出や、新たに労働者を雇い入れる際の労働者からの副業・兼業についての届出に基づくこと等が考えられる。使用者は、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うため、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましい。

(イ)労働者から確認する事項

副業・兼業の内容として確認する事項としては、次のものが考えられる。

・他の使用者の事業場の事業内容

・他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容

・労働時間通算の対象となるか否かの確認 

労働時間通算の対象となる場合には、併せて次の事項について確認し、各々の使用者と労働者との間で合意しておくことが望ましい。

・他の使用者との労働契約の締結日、期間

・他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻

・他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数

・他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続

・これらの事項について確認を行う頻度これらの事項について確認を行う頻度

 

26.【ネット中傷対策→発信者情報開示対象に電話番号も】20.9.1

最近,ネット上の中傷を苦にして自殺される方が増えており社会問題になっています。今年に入って,TV番組に出演していた女子プロレスラーが自殺されたことが契機になり,この対策が練られていました。今般,匿名でネット上,他人の中傷を行った人の住所や氏名などを特定するための発信者情報開示請求の範囲に,電話番号が加えられる省令改正が行われることになりました。下記が総務省の省令改正のパブコメ募集ページです。

 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000099.html

 これにより,今までは発信者の特定のために,①コンテンツプロバイダーへインターネットのIPアドレス開示請求(仮処分),②接続プロバイダーにIPアドレスから住所氏名などの開示請求(裁判)という2段階の裁判手続が必要だったのが,①コンテンツプロバイダーへ電話番号の開示請求(仮処分)→②電話番号をもとに電話会社に弁護士が弁護士会を通じて照会(弁護士法23条の2),と裁判自体は1段階で足りることになりそうです。

 今後も議論が続くようですが,ネット上での匿名での表現の自由と,名誉・信用・プライバシーなどの調整の問題です。