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トピックス/コラム詳細
- 2022年12月01日
- コラム
弁護士:久保井 聡明
久保井L⇔O通信22.11.7-11.29(不動産表示公正取引規約改正,ツナ缶虫混入損害賠償判決,ウーバーイーツ,労組法上の労働者と労基法上の労働者)
232. 【不動産表示公正取引規約改正】22.11.7
さて,よくマンション販売などの広告で,「●●駅から徒歩△分」などという表示がされているのを見かけますが,「実際にはもう少しかかるのと違うかな」,と感じたことはありませんか。このような不動産の広告の表示のルールを定めているのが,不動産公正取引協議会連合会の「不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)」「表示規約施行規則」というものです。
(2)この点,「不動産の表示に関する公正競争規約」「表示規約施行規則」の改正案が,公正取引委員会及び消費者庁の認定・承認を受け2022年9月1日に施行されました。改正については下記の不動産公正取引協議会連合会のHPから見ることができます。新旧対照表はかなりの分量ですが,改正ポイントを説明したリーフレットが分かりやすくできていました。
https://www.rftc.jp/information/695/
(3)リーフレットから特に気になった改正ポイントを少し抜粋すると次のとおりです。交通の利便性などの表示については,いずれも消費者に対して,より実感に近い表示となるように規制を強化しているように思われます。
1. 交通の利便性・各種施設までの距離又は所要時間について
(1) 販売戸数(区画数)が2以上の分譲物件においては,最も近い住戸(区画)の徒歩所要時間等を表示することとしていたが,これに加えて最も遠い住戸(区画)の所要時間等も表示することとした(規則第9条第8号)。
(2) 「通勤時の所要時間が平常時の所要時間を著しく超えるときは通勤時の所要時間を明示すること」と規定していたが,これを「朝の通勤ラッシュ時の所要時間を明示し,平常時の所要時間をその旨を明示して併記できる」と変更(規則第9条第4号ウ)。
(3) 「乗換えを要するときは,その旨を明示すること」と規定していたが,これを「乗換えを要するときは,その旨を明示し,所要時間に乗換えに概ね要する時間を含めること。」に変更(同号エ)
(4) 物件の起点について,マンションやアパートについては,建物の出入り口を起点とすることを明文化(規則第9条第7号)。
(5) 交通の利便について,最寄駅等から物件までの徒歩所要時間を明示するよう規定していたが,これを物件から最寄駅等までの徒歩所要時間を明示すること(バス便の物件も同じ。)に変更(規則第9条第3号)。
2 二重価格表示について
過去の販売価格を比較対象価格とする二重価格表示の規定を以下のとおり変更(規則第12条)。
【二重価格表示をするための要件】
① 過去の販売価格の公表日及び値下げした日を明示すること。
※ 「公表時期」を「公表日」に,「値下げの時期」を「値下げの日」に変更
※ 二重価格表示は販売価格の比較表示のみであり,賃貸物件の賃料の比較表示はできない
➁ 比較対照価格に用いる過去の販売価格は,値下げの直前の価格であって,値下げ前2か月以上にわたり実際に販売のために公表していた価格であること。
※ 「3か月以上前に公表された」を「直前の」に変更
※ 「3か月」を「2か月」に変更
➂ 値下げの日から6か月以内に表示するものであること。(現行と変更なし)
➃ 過去の販売価格の公表日から二重価格表示を実施する日まで物件の価値に同一性が認められるものであること。(新設)
➄ 土地(現況有姿分譲地を除く。)又は建物(共有制リゾートクラブ会員権を除く。)について行う表示であること。(現行と変更なし)
233. 【ツナ缶虫混入損害賠償判決】22.11.21
さて,はごろもフーズが販売したツナ缶に虫が混入していたことで,自社のブランドイメージが傷つけられた等として,製造元の下請け会社に約8億9700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が静岡地方裁判所で11月8日にあり,下請け会社に約1億3000万円の損害賠償を命じる判決を下した,と報道されています。
(2)この点,判決文の詳細がないため分かりませんが,はごろもフーズとしては,下請け会社との間には,ツナ缶の製造委託契約(請負契約でしょうか)があり,その仕事の結果であるツナ缶に虫が混入していた,このため,はごろもフーズには,虫混入缶が見つかった小売店舗運営会社への賠償金や,キャンセルを強いられたCMなどの広告宣伝費,クレーム対応の人件費,コールセンター設置費用,一連の報道の影響で売上が下がった分の逸失利益などの損害が発生した,今回の虫が混入していたことと,これらの損害の間には相当因果関係がある,したがって債務不履行に基づく損害賠償を求める,というような主張をしていたように想像されます。
(3)もともと請求していた損害賠償の金額(約8億9700万円)と認められた金額(約1億3000万円)の間には大きな開きがありますので,裁判所がどの損害を相当因果関係の範囲と認めたのかは分かりませんが,それにしても下請け会社にとっても極めて大きな金額です。もし,非常に低い金額で製造委託を受けていながら,いざ,このような一度の偶発的とも思えるミスで巨額の損害賠償を求められてしまうとしたら,非常に大きな経営上のリスクとなってしまいます。
(4)これらの事態に備えて,予め取引基本契約の中で,損害賠償義務の範囲を,「直接的かつ現実の損害に限る」,だとか,「委託契約の金額を上限とする」,など限定する条項を入れるよう交渉することが必要になります。ただ,なかなか立場が弱い下請けの側からこのようなことを要望しても,受入れられないことも少なくありません。他方で,製造委託を行う企業の側でも,下請け会社に安心して継続的に製造を受託してもらえるように,少なくとも偶発的な事故による損害を下請け会社に一方的に押し付けるのではない解決を行う必要があるのではないか,それが結局は遠回りかも知れませんが,製造委託を行う企業の側にも長期的にはメリットがあるのではないか,今回も結果的にはごろもフーズは裁判には勝訴したかもしれないが,かえってブランドイメージを傷つけることになってしまったのではないか,と感じたりします。
(5)法律上の理屈でいうと,相当因果関係の範囲をどうみるか,という論点に加えて,仮に相当因果関係の範囲に入ると考えられるとしても,それまでの取引の経緯,製造委託を行う企業と下請け会社の規模の大小,製造委託の金額の多寡,虫が混入したのが偶発的な原因であったものか否か,偶発的な事故による損害が発生した時に備えて対応をすることが可能であったか否か(保険の付保)など,様々な要素から,相当因果関係の範囲に入る全額の損害を請求することは信義則に反する,などとして金額を限定する,ということもあってもよいように思われます。
234. 【ウーバーイーツ,労組法上の労働者と労基法上の労働者】22.11.29
さて,2022.11.26の日経新聞に,「東京都労働委員会は25日,料理配達「ウーバーイーツ」の運営会社などに対し,配達員の労働組合と団体交渉に応じるよう命じた。オンラインで単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」を労働組合法上の労働者とする法的判断は国内初。ウーバー側は不服として再審査の申し立てを検討する。海外でギグワーカー保護のルール整備が進む中,日本でも議論が活発になりそうだ。」との記事がありました。
(2)今回問題となったのは,労働組合法上の労働者該当性です。同法では,次の定めがあります。
(労働者)
第三条 この法律で「労働者」とは,職業の種類を問わず,賃金,給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。
(3)同じ労働者でも労働基準法では,次のように定められています。
(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所…に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。
(4)両者の定義を見ると,労働基準法では,労働組合法にはない,「事業又は事業所…に使用される者で」という文言が入っていることが分かります。
(5)同じことを報じた朝日新聞の2022.11.26の記事で,「今回都労委が認めたのは「労働組合法上の労働者」として,団交やストライキを行う権利だ。最低賃金や労働時間規制などより広い範囲で保護を受けるには,「労働基準法上の労働者」として認められる必要がある。ただ,その基準は働き手が「業務の指示を拒否できない」「勤務場所や勤務時間が指定されている」などとより厳密に定められていて,ハードルは高い。」と解説されていたのは,この文言のことです。