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トピックス/コラム詳細
- 2021年12月27日
- コラム
弁護士:久保井 聡明
久保井L⇔O通信21.11.2-11.22(買収防衛策について東京地裁決定、法人の実質支配者リスト制度、特許と産学連携、職務発明、買収防衛策について最高裁決定)
181. 【買収防衛策について東京地裁決定】21.11.2
さて、報道されているように、東京地裁は21.10.29、新聞輪転機大手の東京機械製作所の買収防衛策の発動を認める決定を出しました。今回問題となったのは、東京機械が、臨時株主総会で、利害関係のある大株主(具体的には投資会社のアジア開発キャピタルで約40%の株式を保有)を除いた少数株主だけで、買収防衛策の発動を認める決議を行ったことです。
(2)アジア開発側は、「株主平等の原則に反する」などと主張し、今回の防衛策の差し止めの仮処分を申し立てていましたが、東京地裁は、急速に市場内で株式を買い集めるなどしたアジア開発側の行為を「相応の強圧性がある」などと指摘して、アジア開発側の議決権行使を認めなかったことについて、「直ちに不合理であるとはいえない」「総会の手続きに適正を欠く点があったとはいえず、正当性を失わせるような重大な瑕疵は認められない」などとして却下したようです(日経新聞21.10.30)。アジア開発側は却下を不服として近く東京高裁に即時抗告する方針を示したようですので、今後、高裁や最高裁でどのような判断がされるか注目です。
(3)下記は東京機械のHPに掲載されいてる臨時株主総会の招集通知及びその補助資料です。補助資料を見ると、東京機械側からみた本件の経過が分かりやすく整理されています。
【招集通知】
https://www.tks-net.co.jp/corporate/wp-content/uploads/2021/09/3b1001237378d05b23ad42a30da24ea6.pdf
【補助資料】
https://www.tks-net.co.jp/corporate/wp-content/uploads/2021/10/7d71369b4c74a2059d4b6365eb92f75f.pdf
182. 【法人の実質支配者リスト制度の創設】21.11.9
さて、新聞報道などにもありますように、法人設立後の継続的な実質的支配者の把握についての取組の一つとして、登記所が、株式会社からの申出により、その実質的支配者に関する情報を記載した書面を保管し、その写しを交付する制度を創設することとなりました。令和4年1月31日から運用が開始される、とのことです。
(2)公的機関において法人の実質的支配者に関する情報を把握することについては、法人の透明性を向上させ、資金洗浄(マネロン)等の目的による法人の悪用を防止する観点から、FATF(金融活動作業部会。 Financial Action Task Force)の勧告や金融機関からの要望等、国内外の要請が高まっている、ということが制度創設の背景にあるようです。
(3)今後は、金融機関等が顧客と新たな取引を開始したりするときに、顧客に対して、この実質的支配者に関する情報を記載した書面の写しの交付を求める、その情報に基づいてマネロン対策や反社排除チェックを行う、という実務運用が広がっていきそうです。下記が法務省のHPです。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00116.html
183. 【特許と産学連携、職務発明】21.11.15
さて、報道されていますように、がん免疫治療薬「オプジーボ」の特許をめぐり、ノーベル医学生理学賞受賞者の本庶佑・京都大学特別教授が、薬を製造販売する製薬会社に約262億円を求めた訴訟が、21.11.12、大阪地裁で和解により決着した、とのことです。製薬会社が本庶氏に解決金などとして50億円を支払うほか、京大での教育研究を支援するための研究基金に、230億円を寄付することなどで合意した、ということです。
(2)今回の和解について、日経新聞(21.11.13)では、「15年前に結んだ発明対価を巡る契約内容について、本庶氏の取り分が実質的に上乗せされた。裁判では産学連携の成果を巡る契約の曖昧さの問題が明らかになった。発明対価のあり方が見直される可能性もある。」「大企業を中心に開発者の待遇改善や職務発明の社内規定整備が進み、社内での発明を巡る係争は減った。だが今回の裁判で、産学連携の現場では契約の曖昧さが解消されていなかったことが示された。」などと解説されていました。
(3)上記(2)の日経新聞の記事にあるように、製薬会社と製薬会社の社員ではない研究者個人との間では、発明対価をどのように配分するか契約で明確化しておく必要があります。ただ実際には研究者個人が製薬会社との間できちんと交渉を行って契約書を締結しておくというのは、なかなか難しいことと思われます。新薬を開発するには、莫大な費用がかかり、成功する確率も非常に低いということもあり、先行投資を余儀なくされる製薬会社側の立場も分かります。他方、製薬会社が結果的に新薬の開発に成功し、その新薬に不可欠な特許を発明し提供した研究者の側とすれば、あまりにその対価が低すぎると、将来の研究者の育成や意欲にも悪い影響が生じてしまいかねない、と主張するのもある意味で当然のことのように思われます。このあたり、産学連携をより推し進めていくにあたって解決すべき課題は色々ありそうです。
(4)他方、(2)の日経新聞の解説にあるように、社内での発明については特許法の改正などによって社内規定整備などが進んでいるようです。以下、関係する特許法の条文です。
【特許法】
(職務発明)
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。) は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明 (以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明につい て特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ、使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。
3 従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。
4 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四 条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。
5 契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。
6 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、前項の規定により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする。
7 相当の利益についての定めがない場合又はその定めたところにより相当の利益を与えることが第五項の規定により不合理であると認められる場合には、第四項の規定により受けるべき相当の利益の内容は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。
184. 【買収防衛策、最高裁】21.11.22
さて、報道によりますと、bcc通信181(21.11.1)でお伝えしていた東京機械製作所の買収防衛策発動の件で、最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は11.18日付 の決定で、防衛策の差し止めを求めた買収側の抗告を棄却した東京高裁の判断を支持した、とのことです。これにより、東京機械製作所の買収防衛策を認める司法判断が確定しました。
今回のケースでは、買収側が、公開買い付け(TOB)の適用対象外である市場内取引で短期間に買収していました。このため、一般株主にとっては投資判断に必要な情報と時間が十分に与えられていない、このため、一般株主に対して売却への圧力(強圧性)がある行為で、買収側の議決権を制限することは妥当、という判断のようです。
この点、東京機械のHPを見ると(下記)、最高裁の決定の前後で、両会社の間でめまぐるしい動きがあるようです。
https://www.tks-net.co.jp/