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トピックス/コラム詳細
- 2022年05月02日
- コラム
弁護士:久保井 聡明
久保井L⇔O通信22.4.1-4.25(大弁副会長任期満了,成年年齢18歳に引き下げ,カード会社間手数料料率の公表,「場」の設定者の責任範囲,国税の「伝家の宝刀」についての最高裁判決)
202. 【大阪弁護士会の副会長の任期を無事終えました】22.4.1
さて,昨日(2022年3月31日)をもって,無事,大阪弁護士会副会長の1年間の任期を終えることができました。この1年間,事務所にいる時間が少なく,色々ご迷惑をお掛けしましたが,本日から事務所での仕事に本格復帰いたします。
私は社会人になった最初(1994年)から弁護士として働いてきましたので,大きな組織(と言っても世間的には中小企業規模ですが)の中で働いたのは初めてでした。組織のなかでの1つの物事を進めることの難しさと面白さを感じた1年でした。
今回の経験を活かして,より一層みなさまのお役に立てるように精進したいと思いますので,改めて,よろしくお願いします。
203. 【成年年齢の18歳への引き下げ】22.4.4
さて,2022年4月1日から,成年年齢が20歳から18歳に引下げられました。この点,大阪弁護士会のHPでは,「成年年齢引下げ 18歳になるあなたへ」,という特設ページを設けています。この特設ページでは,「18歳のあなたができること,できないこと」を簡単に表にまとめ,個別の問題についてQAや解説動画も掲載しています。HPのアクセス数を解析すると,この特設ページは結構の人気ペー ジのようです。
もうすぐ18歳になられるお子さんや,18歳,19歳のお子さんがおられる方は,一度,親子でHPをご覧いただければ,と思います。
【大阪弁護士会の成年年齢引下げ特設ページ】
https://www.osakaben.or.jp/seinen/
204. 【カード会社間手数料料率の公表】22.4.11
さて,2022.4.9の日経新聞などで,公正取引委員会が,2022.4.8に,「VISA(ビザ)やマスターカードなど国際ブランドのカード会社に対し,カード会社間の手数料率の公表を求める考えを示した」,と報道されています。公正取引委員会HPの該当ページのURLは下記です。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/apr/220408.html
(2)上記の報告書などによりますと,概ね,次のようなことのようです。
①お客さんがお店でクレジットカード決済をする際に,お店側とお客さんが契約しているカード会社が違う場合,お店側のカード会社からお客さん側のカード会社への手数料(以下「カード会社間手数料」)負担が生じます。②他方,お店は契約しているカード会社に対して加盟店手数料を支払っていますが,この加盟店手数料の7割くらいが,このカード会社間手数料が占めている,ということのようです。③そうすると,もしカード間手数料が安くなれば,これに伴って加盟店手数料も安くなる可能性があります。
(3)ところが,日本ではこれまで,国際ブランドの多くはこのカード会社間手数料の料率を公表してこなかったようです。もし,このカード会社間手数料の料率が公表されれば,お店側としては,契約しているカード会社に対して,「カード間手数料は,この程度の料率なんだから,加盟店手数料についてももう少し安くしてもらえますよね」と交渉することができるようになる,そうすれば,加盟店手数料が安くなり,ひいてはクレジットカード決済をする消費者にも還元され,よりクレジットカード決済が普及していくはずだ,ということのようです。こういったことから,今回,公正取引委員会か国際ブランドのカード会社に対し て,カード会社間手数料の料率の公表を求める考えを示した,ということのようです。
(4)昨年(2021年)も,長年高止まりしていた全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)に銀行が支払う手数料が大幅に引下げられたことで,各銀行は振込手数料を一斉に引き下げをしましたが,今回のカード会社間手数料も,全銀ネット手数料も,普段は消費者から見えていない手数料が明らかになることで,結果的に消費者の手数料が引下げられる,ということで同じような構造と思います。
(5)一方で,銀行にしてもカード会社にしても,どこかで稼がなければなりませんので,これまで当たり前のようにタダだったサービスが有料化されていく,という動きも出そうです。最近の普通預金口座の口座維持手数料の導入がその典型,と思います。
205. 【「場」の設定者の責任範囲】22.4.18
さて,2022.4.16の朝日新聞に,アマゾンで購入した製品が原因で火災に遭った男性が,売買の「場」を提供した事業者にも責任の一部があるとして日本法人「アマゾンジャパン」(東京)に30万円の損害賠償を求めた訴訟で,東京地裁が2022.4.15,請求を棄却する判決を言い渡した,という記事が掲載されていました。
(2)記事によると,原告は,外部の業者がアマゾン上に出品できる「マーケットプレイス」を使って中国メーカーが販売していた大容量モバイルバッテリーを購入したところ,火が出て自宅が火事になり,アマゾンには,①出品者や商品の審査をする義務があった,また,②メーカーの連絡先を適切に表示する義務も怠ったと主張したようです。判決は①について,こうした義務を認める根拠が不明確で,「可能な限り審査することが望ましいという指摘を超えない」と退け,②についても,本件では,原告がサイト内の連絡フォームを通じて最終的にはメーカー側と連絡をとって和解した経緯を踏まえ,アマゾンの義務違反を否定した,ということのようです。
(3)この記事でも紹介されている「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」がこの5月1日から施行されるようです(下記のURLに概要)。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/assets/representation_cms212_220413_04.pdf
ただ,同法でデジタルプラットフォーム提供者に課される,①販売業者と消費者との間の円滑な連絡を可能とする措置,②販売条件等の表示に関し苦情の申出を受けた場合における必要な調査等の実施,③販売業者に対し必要に応じ身元確認のための情報提供を求めること等は,いずれも「努力義務」に留まるようです。これは,「法的義務」まで課すと,プラットフォームへの出品のハードルが上がり過ぎてしまい,プラットフォーム事業者や,プラットフォームに出品しようとする事業者の営業活動への影響が大きすぎるのではないか,ということや,プラットフォームを利用しようとする消費者にとっても利便性が損なわれることになるのではないか,ということを考慮した,ということかな,と思います。
(4)「場」の設定者の責任はどこまでか,はこのような商品の出品だけではなくても,FacebookやTwitterはどこまで投稿される内容についてまで責任を負うべきなのか,例えば,トランプ元アメリカ大統領の例のツイートは許されるべきか,ロシアのプロパガンダ投稿の削除は許されるのか等,「場」の設定者が表現の内容にまで関与することの是非が,表現の自由との関係で色々議論されています。なかなか難しい問題ですが,みなさんはいかが考えられますか?
206. 【SDGsセミナーのご案内】22.4.21
私も会員になっている日本CSR普及協会近畿支部が,この度,下記のとおり10周年記念シンポを開催します。是非,★下記のURLからお申込み下さい。オンラインもありますので,お気軽に!(★すでにイベント終了しています)
https://jcsr-kinki.jp/seminar.html
テーマ 『これからのSDGs』・『ビジネスと人権』を学ぶ!
開催日 2022年5月12日(木) 14:30~17:45
会場 大阪弁護士会館2階(大阪市北区西天満1-12-5)
★ オンライン参加もあります!
第1部 【基調講演・トークセッション】
「これからのSDGsとESG~金融法務やビジネス法務学の視点から~」
●講師1 池田眞朗 氏
武蔵野大学大学院法学研究科長・同大学法学部教授
慶應義塾大学名誉教授 元司法試験考査委員(民法)
専門は民法債権法,金融法
●講師2 水野浩児 氏
追手門学院大学経営学部長・同大学経営学部教授
近畿財務局「ちほめん」アドバイザー 北おおさか信用金庫理事
専門は民法債権法・租税法
第2部 「企業の『ビジネスと人権』の取組みと法律専門家の役割」
●講師3 菅原絵美 氏
大阪経済法科大学国際学部教授
ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク運営委員
専門は国際法,国際人権法,ビジネスと人権,人権・労働分野におけるCSR問題
207. 【国税の「伝家の宝刀」についての最高裁判決】22.4.25
さて,最高裁判所が22.4.19に出した相続税を巡る判決が新聞などで大きく報道されています。事件の概要は,①マンションを相続した相続人らが,相続したマンションについて路線価などに基づいて算定したうえで相続税を0円で申告,②これに対して,国税当局が路線価評価額では実勢価格よりも低すぎるとして,収益還元などで再評価して約3億円を追徴課税,③これに対して相続人らがこの追徴課税処分の取消しを求めて訴訟提起,④最高裁は結論的に国税当局の処分を適法として,相続人らの上告を棄却,したものです。
(2)判決文については,下記の最高裁HPのURLで紹介されています。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91105
(3)新聞などでは,「国税『宝刀』にお墨付き相続マンション評価見直し最高裁判決 例外規定,基準明示なし」(日経新聞22.4.20)などと紹介されていました。相続税対策のために借金をして不動産(本件ではマンション)を購入し,相続税の課税価格を下げる,という手法は比較的ポピュラーですので,今後,この最高裁判決がどのようなケースであれば適用されるのか,大変注目されるところです。ただ,正直,私にその点を分析する知識はありません。そこで,以下では,最高裁判決で認定された事実(一部,一審の東京地裁令和元年8月27 日判決で認定された事実で補充)を時系列に従ってご紹介し,その事実を前提に最高裁がどう判断したのか,を中心にご紹介することにします。
(4)前提となる相続税法及び財産評価基本通達の定め
●相続税法22条
相続等により取得した財産の価額は当該財産の取得における時価により,当該 財産の価額から控除すべき債務の金額はその時の現況による旨が定められている。
●財産評価基本通達(国税庁長官の通達,以下「評価通達」)1(2)
時価とは課税時期(相続等により財産を取得した日等)においてそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい,その価額は評価通達の定めによって評価した価額による旨を定めている。
●他方,評価通達6は
評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定めている。(★今回の「伝家の宝刀」はこれです)
(5)最高裁判決が認定した事実関係・時系列
h21.1.30
A(被相続人,当時90歳)が信託銀行から6億3000万を借入れた上で,同日付で本件甲不動産(東京都杉並区の投資用収益物件で,44戸の共同住宅及び保育園として利用されている)を代金8億3700万円で購入
h21.12.21
A(被相続人)は共同相続人らのうちの1名から4700万円を借入
h21.12.25
A(被相続人,当時91歳)は信託銀行から3億7800万円を借入れた上で,同日付で本件乙不動産(神奈川県川崎市の投資用収益物件で,共同住宅として利用されている39戸の専有部分からなる建物)を代金5億5000万円で購入
★「被相続人及び上告人らは,上記の各不動産の購入及び購入資金の借入を,被相続人及びその経営していた会社の事業承継の過程の1つとして位置付けつつも,本件購入・借入が近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り,かつ,これを期待して,あえて企画して実行した」,と認定されている。
h24.6.17
A(被相続人)が94歳で死亡,上告人らほか2名が財産を相続で取得(甲不動 産と乙不動産が含まれていたところ,被相続人の遺言に従って,上告人らのうち 1名が取得)
h25.3.7
遺言によって乙不動産を取得した相続人が5億1500万円で乙不動産を第三者に売却
h25.3.11
上告人らは,本件相続につき,評価通達の定める方法により,本件甲不動産の価額を合計2億0004万1474円,本件乙不動産の価額を合計1億3366万4767円と評価した上,札幌南税務署長に対し相続税の申告書を提出。この申告書においては,課税価格の合計額は2826万1000円とされ,基礎控除の結果,相続税の総額は0円とされていた。
★仮に本件購入・借入がなかったとすれば,本件相続にかかる相続税の課税価格の合計額は6億円を超えるものであった,と認定されている。
h28.3.10
国税庁長官は,札幌国税局長からの上申を受け,同国税局長に対して,本件各不動産の価額につき,評価通達6により,評価通達の定める方法によらずに他の合理的な方法によって評価することの指示
h28.4.27
札幌南税務署長は上記指示により,上告人らに対し,不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準により本件相続の開始時における本件各不動産の正常価格として算定した鑑定評価額(具体的には原価法による積算価格を参考にとどめ,収益還元法による収益価格を標準に求めた)に基づき,本件甲不動産の価額が合計7億5400万円,本件乙不動産の価額が合計5億1900万円であることを前提とする本件各更正処分(本件相続に掛かる課税価格の合計額を8億8874万9000円,相続税の総額を2億4049万8600円)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした
h28.7.27
上告人らは本件各更正処分等の全部取消しを求め,審査請求
h29.5.23
国税不服審判所長が審査請求を棄却
h29.11.22
上告人らが訴訟提起
(6)上記(5)の事実関係を前提に最高裁はどう判断したのか?
【相続税法22条に違反するかどうか】
相続税法22条は,相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが,ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。そして,評価通達は,上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが,上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず,これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると,相続税の課税価格に算入される財産の価額は,当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り,同条に違反するものではなく,このことは,当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。そうであるところ,本件各更正処分に係る課税価格に算入された本件各鑑定評価額は,本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから,これが本件各通達評価額を上回るからといって,相続税法22条に違反するものということはできない。
【租税法上の一般原則としての平等原則について】
他方,租税法上の一般原則としての平等原則は,租税法の適用に関し,同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして,評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり,課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから,課税庁が,特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは,たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても,合理的な理由がない限り,上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも,上記に述べたところに照らせば,相続税の課税価格に算入される財産の価額について,評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には,合理的な理由があると認められるから,当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。
これを本件各不動産についてみると,本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの,このことをもって上記事情があるということはできない。
もっとも,本件購入・借入れが行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず,これが行われたことにより,本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると,課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり,基礎控除の結果,相続税の総額が0円になるというのであるから,上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。そして,被相続人及び上告人らは,本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り,かつ,これを期待して,あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから,租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると,本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは,本件購入・借入れのような行為をせず,又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ,実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから,上記事情があるもの
ということができる。
したがって,本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。
(7)上記の最高裁の判決内容を見ると,最高裁は,①本件購入・借入れが行われたことによって相続税の負担が著しく軽減されたことになったかどうか,に加え,②被相続人及び上告人らは,本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り,かつ,これを期待して,あえて本件購入・借入れを企画して実行し租税負担の軽減をも意図していたのか,という点を考慮して結論を導いています。
(8)この点,一審判決を見ると,上記(7)②のような認定がされた理由として,①各不動産の購入及び借入れを行った際,A(被相続人)が90歳を超える高齢であったこと,②実際にこの購入及び借入れによって課税価格が大きく低下し相続税が課されない状態になったこと,③信託銀行が本件各借入れに係る貸し出しに際し作成した各貸出稟議書に,(甲不動産の購入資金の借入について)「相続対策のため不動産購入を計画。購入資金につき,借入の依頼があったもの」,(乙不動産の購入資金の借入について)「相続対策のため本年1月に6億3000万円 の富裕層ローンを実行し不動産購入。前回と同じく相続税対策を目的として第2期の収益物件購入を計画。購入資金につき,借入の依頼があったもの」,という 記載があったことなどがあげられています。
(9)ただ,冒頭に書きましたように,世の中では,程度の差こそあれ,被相続人が借入を行って不動産を購入して相続税対策を行うということがよく行われており,では,一体,どの程度であれば,今回と同じように「伝家の宝刀」が抜か れる可能性があるのか,明確な基準があるとは言えず,今後,このあたりがより明確になってくるのか,注目が必要です。